「どこまでが、君の本音?」
「…仰っている意味が良くわからないのですが」
隠し切れない動揺が滲み出るように、彼の瞳が揺らぐ。

「君が茜に固執するのは、大方俺への嫌がらせ…違う?」
「…っ」
「君が俺にどんな感情を抱こうとそれは一向に構わないし、話ならいくらでも聞くよ。でも」

言葉を切って、真っすぐに見つめ返す。

「これ以上茜の事を巻き込むつもりなら、もう黙っているつもりはない」

もう二度と傷つけさせない。たとえそれが誰であろうと。

「は…っ、今更いい人ぶんなよ。忘れたわけじゃないだろ、今まで自分が何してきたか」

…こっちが本性か。

変わった態度は、予想の範囲内だった。
そんなことよりも俺の思考を支配し始めたのは、もし茜に過去のことを尋ねられたら…そんなことで。

俺はきっと、なんとなくしか話すことはできない。
…言えないことをしてきたのは自分自身に違いないのに。

「茜の事を誰かに渡すつもりは一切ないし、彼女以外の誰かを傍に置くつもりもない。…今も、これから先も」
「…っ」

その言葉には、嘘も偽りもなかった。

「申し訳ないけど、そろそろ時間だから失礼するね」
それ以上に言うことはもう何もなくて、踵を返す。

「いつから、そんな…」
ドアノブに手を掛けたところで、呟くようなそんな小さな声が聞こえた。

いつから…か。そんなの、決まってる。

「君が一番わかってるんじゃない?」
自分が抱く感情に、彼が気が付いているのかはわからないけれど。

どちらにしろ、彼はこれ以上茜のことを傷つけることはしない気がした。
茜のことを傷つけたことで、きっと彼は自分で自分を傷つけていた。

…まぁでも念には念を。そんなことを考えながらポケットから携帯電話を取り出す。
我ながら過干渉だな、なんて自分に半ば少し呆れながら。