あえてこの場所を選んだ彼の意図は明白で。
…けれどその目的に関してはまだ、確信が持てるというわけではなかった。

「すみません、突然」
「いや、大丈夫だよ。それで話っていうのはなにかな?」
彼の方から切り出された言葉に、伏せ気味にしていた視線を上げる。

「茜先輩と付き合ってるって、本当ですか?」
「あぁ、本当だよ」
言葉の裏にあるであろう思惑を探るようにゆっくりと返事を返すと、彼の瞳が物憂げに揺れた。

それは本心か…それとも。

目の前の瞳に黒い影が宿ったのと、彼がポケットから何かを取り出したのは、ほぼ同時だった。

「これ、昨日茜先輩が忘れて帰ったんです。俺の部屋に」
そう言って彼が差し出したのは、確かに見覚えのある繊細なレースがあしらわれたハンカチで。

「風邪引いた俺の事付きっきりで看病してくれて…それからその、そういう雰囲気になってしまって」
「…そう。それで?」
口の端に微笑みを浮かべながら返事を返す。するとそれが予想外だったのか、彼の瞳が一瞬大きく見開かれた。

「それでって…俺、中途半端なことするのは嫌なので、はっきりしておきたくて」
何も言わない俺に痺れを切らすように矢継ぎ早に紡ぎだされていく言葉に、黙って耳を傾ける。

「茜先輩の事、俺にくれませんか?」
沈黙しか返ってこないことに腹が立ったのか、次第に彼の声色に苛立ちが募っていく。

「相沢社長ならいくらでも他に女の人なんているんでしょう?今までもそうだったみたいに」

あぁ…やっぱりそうか。

吐き捨てるように発せられた過去を示すその言葉に、疑念が確信へと変わった。