「…茜」
一通りの話を終えたあと私の名前を呼ぶ声に、思わずびくっと肩が揺れた。

雪さんが今どんな顔をしてるのか、わからなくて。
雪さんが今何を考えてるのか、わからなくて。

「ごめんなさい、私雪さんと付き合ってるのに違う男の人にキスなんかされて…」
顔を上げられないままぎゅっと目を瞑ると…もう一度、優しい声が私の名前を呼んだ。

「茜…こっち向いて」

…ゆっくりと顔を上げると。怒るでもなく、ただただ心配そうに私を見つめる雪さんの瞳が私を見つめていた。

「唇、赤くなってる」
言われて、無意識に唇をこすってしまっていたことに気が付く。
伸びてきた大きな手のひらが頬を包み込み、親指で少しヒリヒリと痛む部分を撫でるようになぞった。
その指先は…途方もなく優しくて、暖かかくて。

「…大丈夫だから。俺が、忘れさせてあげる」
間近で視線が絡み合い、じんわりと体温が伝わってくる気がした。
私の後ろめたい気持ちも不安な気持ちも…全て包み込むような、甘いキスが私を支配していく。

「ん…んっ!?」
優しいのに深いところまで絡めとるような口付けに思考が蕩けそうになったとき…いつの間にか腰に回されていた手に、突然ふわっと抱き上げられた。
唇が触れ合ったままで言葉を紡ぐことができないままに、雪さんが私の身体を運んでいく。

気が付けば私は、ベッドの上で雪さんと向かい合う形で膝の上に乗せられていた。

「ゆ、きさ…」
「俺の事だけ考えて」
一気に激しく求められるまま容赦なく奪われて、否が応でも雪さんのことしか考えられなくなっていく。

「俺が茜のこと嫌いになるなんて、ありえないから」
…甘いキスの合間に、身体の底を撫で上げるようなそんな声が聞こえた。