「連れて行きたい場所があるんだ」そう雪さんに言われてたどり着いたのは、海が目の前にある丘に建つ白い一軒家だった。

「わ、可愛い!ここカフェか何かですか?」
「うん、昔からのお気に入りの場所なんだ」

建物まで続く階段とその周りのウッドデッキまでもが真っ白で、少し向こうにはテラス席らしきものが見えている。
真っ青な空と、紺碧の海とのコントラストが鮮やかでとても綺麗だった。

「あ、最初少しびっくりするかもしれないけど危険はないから安心してね」
「え?それってどういう…」

雪さんの言葉の意味がわからず聞き返そうとしたとき、外観の中でそこだけが色のついた濃紺のドアが開いた。
…かと思うと、大きな何かが思いっきり突進してきて思わずよろけた背中を雪さんに支えられてなんとか踏みとどまる。

「雪~!待ってたわよ~!」
わけのわからないまま驚いて視線を漂わせると…じっと私を見上げている動物がいた。
「え!?」
衝撃が強すぎて一瞬つぶらな瞳をした目の前のゴールデンレトリーバーが喋ったのかと錯覚する。

「っくく…茜、さすがに犬は喋らないから」
「あ、はは…ですよね」
私の様子を見た雪さんが、堪えきれないとでもいうように口元を抑えて笑っている。

「笑ったりしてごめんね、つい…茜の反応が可愛くて」
赤くなった顔を隠すように俯かせた頭をあやすように雪さんに撫でられていると、ドアの方から声がして顔を上げた。

「ごめんなさいね、この子可愛い女の子が大好きで…」
こちらに向かって歩いてくる人はとても綺麗な中世的な顔立ちをしていて、一瞬男の人なのか女の人なのかわからなかった。