「ふあ…」
繰り返される甘い口づけは私の思考回路をショートさせ、意識を向こうの方へと連れ去っていく。

「もう…っ、雪さん!」
「あはは、ごめんね」

ふわふわしそうになる意識をギリギリのところで引き戻し、かろうじて声を出した。

この優しい笑顔に向かって私が本気で怒ることなんてできないことを…きっと彼は気付いているんだろうけど。

「さあ行きましょうか、お姫様」

私の手を引き立ち上がらせると、流れるような仕草で片膝をついた雪さんが指先に口づけを落とした。まるで本物の王子様みたいに。

秋ちゃんの一件があってから…なんというか、雪さんの甘い感じがさらに増している。

「ちょっとかっこよすぎです」
「俺からしたら茜が可愛すぎるけどね」
上目遣いに見つめる瞳には、心の奥まで見透されているのかもしれない。

「今日は1日全力で茜のことエスコートするから、覚悟しててね」

導かれるまま寄り添うようにくっつくと、雪さんの淡いトワレの香りが鼻をくすぐった。
体温、香り、笑顔…その全てに癒される。

「なんか雪さんって魔法使いみたいですね」
「ん、どういうこと?」

年甲斐もなくそんなメルヘンな言葉を口走ってしまうくらい、幸せな気持ちが溢れて止まらない。

「ふふ、なんでもありません」
ずっと一緒にいられる今日を想像して、大好きな人の隣で私は存分に胸を躍らせた。