「…っ」
鳴り響いた携帯の着信音が失われそうになっていた理性を取り戻させた。

「雪さん、電話が…」
「いや、今はいい」

荒々しい自分の呼吸を落ち着けるように息を吐く。
きつく込め過ぎていた腕の力を緩め、茜の身体をゆっくりと解放していく。

「雪さん?」
顔を覆うように当てた手のひらの隙間から見える茜の瞳は潤んでいて今にも溶けてしまいそうなほどなのに、そんな中でも俺のことを心配するような優しさが感じられた。

「…ほんとごめん」
素直な思いが口からこぼれた。
「正直焦った。傍にいてあげられなかったのは俺の方なのに…」
こんなに独占欲が強かった自分に心底驚く。

「かっこわる…ごめ」
「雪さん」
見られたくなくて逸らした顔が、ゆっくりと伸びてきた茜の手のひらによって優しく包まれた。

「…嫉妬してくれる雪さんも、余裕がない雪さんも、甘えんぼな雪さんも、私は…どんな雪さんも大好きです」
こつんと額が重なって、茜の顔が目の前いっぱいに広がる。

…まいったな。

茜には言えないような感情ごと全部抱きしめられるように、目の前の瞳が優しく細められていく。

「茜だけにはかなわないよ」
もう2度と悲しい涙は流させないと心の中で誓って、目の前の愛しい人をぎゅっと抱きしめた。