「お疲れ様でした」

部活も終わり、帰ろうと校門を出た時だった。

「柊馬!」

後ろから凛子が駆け寄ってくる。

「どうした?なんでこんな遅い時間まで」

「柊馬のこと待ってたの」

「そうか、もう暗いし送ってくよ」

「ありがと」

凛子がこんなことをするなんて珍しい。

なぜだろう、ただの偶然......?

なんだか嫌な予感なする。

気のせい......だろうか?

「柊馬」

もうすぐ家というところで凛子に呼び止められた。

「どうした?」

見ると凛子はうつむいている。

「どうかしたのか?」

俺がそういうと凛子はゆっくりと顔を上げ

「私...柊馬のことが好き」

と俺の目を見てはっきりと言った。

「え?」

まさか告白されるとは思ってもいなかった。

「柊馬は?」

「俺?」

わからない。

ふと結姫の顔がうかんだ。

あの美しい笑顔が。

でも......

「もしかして結姫ちゃん?」

「っ.....」

俺は思わず目を見開いた。

凛子の口から結姫の名前が出るとは思わなかった。

「やっぱり......」

凛子は悲しそうにうつむいた。

俺はどうすればいい。

凛子を傷つけたくない。

けれど自分の気持ちがわからない。

「あんな病弱な子、柊馬とは釣り合わないよ......」

すると凛子がそう小さく呟いた。

「......凛子?」

なんだか様子がおかしい。

「私だったら......柊馬を悲しませるようなことしないから」

「どういう、ことだ?」

「だってあの子......」

この先を聞くのが怖い。

「もうすぐ死ぬんだよ......?」

「えっ?」

凛子が言っていることが信じられなかった。

結姫が死ぬ......?

「だから......」

そういえばクリスマスの日、2人が中庭で話しているのを見た。

その後、結姫は倒れた。

まさか......

「なあ、凛子。お前、結姫に何か言っただろ?」

俺は凛子の言葉をさえぎるように言った。

本当は疑いたくはなかった。

でも.....

凛子は俺の質問に答えることもなく、ただうつむいているだけだった。

「凛子!」

いつのまにか俺は大きな声を出していた。

「ごめんなさい......」

凛子の声は震えていた。

彼女は泣いていた。

「わ、私......あの子に、ブサイクって、柊馬はあなたのことなんか見てない......あなたなんて早く死んじゃえばいいって、言っちゃったの......」

凛子の言葉に俺は思わず固まってしまった。

まさか結姫を苦しめていたのが凛子の言葉だったなんて、考えてもいなかった。

だからあんなことを......

凛子に対する怒りがこみ上げる。

「凛子......」

言葉に力が入る。

しかし、彼女に怒りをぶつけるなどできなかった。

「すまない」

「とう...ま......?」

彼女は俺の言葉が信じられないようだった。

「たしかに、お前がしたことは許されることじゃない」

凛子は涙でいっぱいになった目でこちらを見ていた。

「だけど人を好きになると周りが見えなくなってしまう。それにそんなお前の気持ちに俺は気づいてやることができなかった」

凛子の目から涙がこぼれる。

「1人で抱え込ませていてすまなかった」

「柊馬......」

俺は泣いている凛子を抱きしめた。

「お前の気持ちは嬉しい。だけど俺は.......」

「わかってる」

「こんな自分勝手な俺を許してくれ」

「うん」

凛子は自ら俺から離れると

「早く行かないと」

そう言って俺の背中を押した。

「ありがとう、凛子」

凛子は笑顔で送り出してくれた。

俺は振り返ることなく結姫のもとへ走った。

彼女を強く抱きしめるために。