それから大輝のくだらない話につき合わされ、身の回りのことができないとこきつかわれる始末だ。
「じゃあ帰るな」
「そうか、またな」
病室を出て廊下を歩いているとどこからか小さな子の泣き声がする。
声のする方を見ると小さな子が床に座り込みながら泣いていた。
どうやら転んでしまったようだ。
俺はその子に駆け寄り「大丈夫?」と声をかけた。
その時だった。
「大丈夫?」
と誰かと声が重なった。
この声……
「ありがとう……お兄ちゃんお姉ちゃん……」
「痛かったな」
「ケガは?」
「大丈夫……」
「よかった、立てる?」
「うん」
その小さな子はそう言って立ち上がると中庭へ走って行った。
「走ったら危ないぞ」
「走ったら危ないよ」
再び声が重なった。
そこには白雪姫と呼ばれる少女がいた。
俺たちは目が合うと
「あの時の……」
「あの時の……」
とまた声が重なった。
思わず2人とも笑ってしまった。
すると彼女はいきなり目をそらした。
「そ、それじゃあ……」
そう言って彼女は背を向けて歩き出した。
「まって!」
俺は思わず彼女を呼び止めていた。
彼女は立ち止まり振り向いた。
彼女は不思議そうにこちらを見ている。
「あ、なまえ……名前教えてもらえますか?」
俺がそういうと
彼女は恥ずかしそうに、でも俺を真っすぐに見て
「藤白結姫です」
と小さな声でこたえた。
迷惑だったのだろうか。
自分からこのようにして名前を、しかも全く知らない女の人に聞くということをしたことがなかった。
ここからどうすればいいのかがわからない。
2人の間に微妙な空気が流れる。