ロング・バケーション

ドクターの住む低層マンションは、クラシカルだけどセンスが良くて、壁には木材が貼られていて木の香りがして落ち着く。

革張りのソファーもダイニングテーブルも全てがブラックで揃えられているせいか、大人の男性の部屋という雰囲気でいっぱい。


これまで彼氏がいなかったから、男の人の部屋に入るのは勿論初めて。
ドアを開けられた時は緊張し過ぎて、胸が割れそうなくらいバクバク鳴った。


だけど、ドクターはいつもの感じと違わず、慣れた調子で料理を作り、それを食べ終えた今も手際良く洗い物をしている。

間違いなく私よりも家事能力が高そうだな…と思え、対面式のキッチン内に立つ彼の姿を羨望の眼差しで見ていた。



「凛さん」


キッチンの中にいる人から呼びかけられ、ドキッと小さく胸を弾ませる。


「何でしょうか?」


思わず立ち上がった。


「コーヒーにブランデーを混ぜてもいいか?食事の後に飲むならストレートのブラックコーヒーよりかは一工夫したい」


「ブランデー?」


「うん、ちょっとクセが出るけど旨いんだよ」