ロング・バケーション

「こっちは迷惑なくらいにですね」


看護師になると決めたのも、そんな祖父の呪縛から逃れたい気持ちが何処かにあったせいかもしれない。

だけど、これまで祖父母の言っていたように貞操を大事にしてきたのには、その反対の思いもあったからなのかも……。


逃れたいけれど、嫌われたくはない。
幼い頃から父に辛辣な態度の祖父を見て、そう思っていたから__



「また泣きそうな顔してる」


そう言われてハッとした。
なるべく考えないようにしていたことを見透かされた様な感じだ。


「泣かないですよ、もう」


忘れるんだ、とオムライスを口に運ぶ。
トロトロな卵に飲み込んだ涙の塩気が混ざり、少し塩っぱい味がした……。




「ご馳走様でした」


空になった皿を前に手を合わせると、ドクターはいやいや…と言いながら片付けだす。


「あ、洗うのは私が」


立ち上がるとお客様は座ってていいからと止められた。


「食後のコーヒーでも淹れるから」


マシーンだけどね、と笑いかける彼に肩を竦めて座り直す。


それにしても…と思いながら、手持ち無沙汰だな…と部屋中に視線を巡らせた。