「すみません……」


何となく謝ってしまった。
ドクターに嫌われたかな…と、少し悲しい気持ちになっていく。


「別に謝らなくてもいいけど」


許すような事柄でもないし…と言われ、ますますどうしていいか分からず気落ちする。

これが男性と付き合った経験が少しでもあれば、何とかこの雰囲気を修復する手立てを思い付いただろうけれど、残念ながら何も思い浮かばず、ただ首を項垂れてしまうだけしか能がない。


そのうち、彼がふぅーと長い息を吐き出した。
何となく顔を上げて前を見ると、見たことのない場所を走っている。


(……何処ら辺だろ。此処)


私の生活圏は、自分が住んでいるマンションと実家のある辺りか、勤めている施設の周辺ぐらいが主な範囲だ。

運転もしたことがない私にとって、車窓の景色は見慣れないものに映った。



「凛さん」


ハッキリとした声で名前を呼ぶ彼を振り向くと、ちらっと視線が流されてくる。

ドキッと胸を弾ませて、はい…と返事をしたら、彼の横顔が微笑んだ。


「今夜はうちで食事にしよう。俺が君に美味い物を作ってやるから」