ロング・バケーション

どうも私の部屋に来ようとしているところだったみたい。
おいで、と手招くドクターの誘いを断りきれず、私はのろのろと足を前に進めた。




「お疲れ様です…」


助手席側のドアを開けながら中に入る私に、彼はうん…と一言返すだけ。


「何処かへ行ってたのか?…あ、ひょっとして実家からの帰り?」


すぐ近くに見えるマンションを見つめて振り返る。
嘘を吐くこともできず、ええ、まあ…と答えた。


「実家で何かあった?」


信号が変わり、ハンドルを握るドクター。
後も何も、今すぐに話が聞きたいように感じる。



「祖父と言い合いをしました」


「えっ!?」


「余りにも頑固なので」


お互い様なのだがそう言うと、ちらっと視線を走らせたドクターが……


「ふーん、そう」


それで?と訊ねられ、言い逃れもさせてくれない雰囲気だな…と思った。


「丁度いいところへ母が帰ってきて、言い合いは一時的に中断になったんですが…」


「うん」


言葉を挟まずにいる彼は、私の気持ちを受け止めようとしているのかもしれないけれど__