ロング・バケーション

「仕様がないと言われると、返って気になるんだけど」


電話口の向こうから聞き耳を立てる雰囲気を感じ取り、ギクッとしつつも何も言わずに口籠もった。


「言えないのか？」


ドクターの声にますます口を閉ざしてしまう。
彼は仕様が無さそうに息を吐き出し、まあいいけど…と諦めたように囁いた。


「話は後から聞くよ。今仕事終わったから一緒にご飯食べよう」


丁度部屋には真っ直ぐ帰る気にはなれないでいたところだ。
ラッキー♪と一瞬思ったけれど、直ぐに会えば話を聞かれると考えた。


「今日はちょっと…」


嘘を吐きそうになり、咄嗟に言葉を考える。
食欲がない…と言うのも何故だと疑われそうだし、少しでも思いと違うことを言うのも気が引ける。


迷ったまま歩きながら戸惑った。
目の前の交差点の信号が赤になり、走っている車の列が止まるのをボンヤリと見ていた。



「…凛さん！」


電話口からではない声に驚いて、声がした方へ視線を向ける。

綺麗に磨き抜かれたシルバーの車体から顔を出している人がいて、ギクッと背中を仰け反らした。


「乗って。丁度良かった」