ロング・バケーション

「それに、この部屋もワンルームにしては、かなり広いよね。立地もいい所に建ってるし、通勤にも便利な場所だしね」


実家も近くだ…と窓の方を見つめながら話す。


「あのタワーみたいなマンションの最上階が実家だろ。この付近に建つマンションの最上階に住むなんて、庶民ではなかなか出来ないことだよ」


やっぱり酔ってきたのか、ドクターの話は止まらない。
私はそんな風に彼から見られるのが嫌になり、立ち上がってカーテンを閉めに行った。


「どうして閉めるの?」


窓の側に立つ私の所へ彼が来る。
お嬢様のように思われたくないから…と呟けば、小さくフ…と笑われた。


「凛さんは変わってるな」


自分を良いように見せたくないのかと問われ、良いようにも何も、今此処に居る自分が全てだと思う。


「例えば実家がタワーマンションの最上階にあっても、この立地のいい場所に建つワンルームが祖父の持ち物でも…ですね」


顔を上げて話し出せば、何故だか胸が詰まってくる。


「私は老健で働く一看護師で、別にお嬢様でもなければ、ハウスキーパーを雇う家の娘でもないんです」