ロング・バケーション

「先生、聞いてます!?」


グツグツと煮立つ鍋の向こう側にいる彼に声をかけた。
さっきから面白くて堪らないと笑う彼は、はいはい…と声を噛み締めて返事する。


「聞いてるよ。君が周りの人から散々質問攻めにされたって」


土鍋の中から背中の丸くなったエビを摘み上げ、自分の取り皿の中に入れるドクター。


「そうなんですよ、お陰で午後は仕事にならないくらい邪魔ばかり入ったんです!」


力強く肯定すると、彼は海老の殻を剥きながら他人事のように、ふーん…と呟く。


「細井さんなんて主任にメールまでしてたんですよ。こっちのラインに『本当なの!?』と入ってきて驚きました」


他にも病棟の患者さんや職員達にまで呼び止められて弱った。

ドクターは、たまにはそれもいいんじゃない?と軽い調子で言い、どんなに私が困惑しているかを知ろうともしない。


「どうしてあの場所であんな事言ったんですか」


「それは君の信用を得る為に」


「あんな所で言わなくても私は先生を信用しています」


「本当に?」