ロング・バケーション

鼻水を啜りながら彼から離れようとしたけれど、彼は私を抱き寄せたまま一向に腕の力を緩めようとしない。

うん…と返事をしてもそのままで、返って力を込めてくる。

すっぽりと頭と背中を抱え込まれたままの私は、流石に少しずつ焦りだした。



「先生…?」


小さい声を発した。


「分かっているからもう少しこのままで」


耳元に聞こえる声は熱っぽさを帯びている。
腕を無理矢理振り解くこともできず、じっとしたままで息を凝らした。


彼が泣いているようには感じなかった。
だから、行動の意味するところが分からず困惑。

もしかすると、静かに怒っているのだろうか。
さっきした縁談のことを考え、話しだすきっかけを見つけ出そうとしているのか。



「…凛さん」


ドキンと胸が鳴る。名前を呼んだ彼に恐々と目線を上げようとしたらようやく腕の力が緩み始めた。


上目遣いに彼を見ると直ぐ近くに顔があり、ドキッとするほど距離が近い。
吸い込まれそうな目ヂカラにも焦り、「何ですか?」と声をかけた。


「それはこっちの台詞だよ。さっきの縁談ってどういう意味?」