ドクターは唇を固く結んでいた。
眼差しは真剣に私を見ていて、いつも斜め上に上がっている唇の端が下がり、如何にも機嫌が悪そうに見える。


「言い訳?」


彼の顔を見たまま問うと小さくああ…と声が戻る。
その声も何だか不機嫌そうで、普段の穏やかに話す彼のイメージとは、全く逆の雰囲気を感じ取った。


「とにかく車に乗れよ。立ち話もなんだから」


危ういことなどされないだろうかと不安になりながらも引っ張られるままに歩く。
強引そうなところも、これまで一度も見たことがなかった。


助手席のシートに座らせると彼は運転席のドアを開けて乗り込んでくる。
無言のままシートベルトを締め、ちらっと私に目線を向けた。


「締めないと走れないから」


幾分さっきよりも声色が柔らかだった。
だけど表情は固くて、暗にさっさとシートベルをするように言ってくる彼に反対の行動をとる勇気はなかった。

何となく恐怖に似たものを覚えながらベルトを引っ張り、ロックをするとドクターが__


「今晩、遅くなると思って覚悟しておいて」