ロング・バケーション

忘れたフリをしておこうか…と思ったが、そういう器用な嘘が吐ける性格でもない。

それよりも地雷でも踏むつもりで、昼間のあれは何なんですか!?と彼に問い質した方が性に合っている。

ドクターが何と言って弁解を始めるのか、それも聞いてみたいと思った。



意を決してラインを送ったのは午後七時過ぎ。
流石に休日の外来診療も誰かと替わっただろうな…と思える時間だった。



『仕事終わりました』


八文字の短い言葉を送ってもなかなか既読が付かずにシュンとする。
もしかして彼はあの後、八神さんと何処かへ行ってしまったのかもしれない。


(何処へ行ったの…?)


その何処かを考えると落ち込んだ。
付き合いますと言ってから、たった数日しか経っていない相手なのに。



気落ちしたまま服を着替え、ピンで留めていた前髪を下ろして指で撫で付ける。
仕事中の私とはギャップを感じると言ってくれた人は、今何処で、何をしているのだろう。


「はあ…」


思いきり深い吐息をこぼしてしまうと更衣室のロッカーに付いている鏡が曇る。