「いいだろ」


妙に色っぽい眼差しで確かめられ、無言のまま小刻みに頷いた。
私を解放するように腕を離した彼が、またね…と言って背中を前に押し出す。


その勢いのままにエレベーターから降りた私は、閉まりだすドアの中を振り返った。


庫内の奥に貼られた鏡の隅にドクターの白衣の裾がちらりと写って閉じていく。
その様子を黙って見つめ、さっきの態度は私の気を引く為にわざとしていたの!?と感じた。


(もしかして、まんまとハマったの?私)


彼ならそれくらいするかもしれない。
何と言っても遊び人と称されるくらいの人だから。


「ああ…もう…」


まさかこんな形で感情を逆撫でされるとは思ってなかった。彼とは違い、恋愛経験の無さを痛感してしまった。