「あ…また固まってる」


微笑んだ彼が楽しそうに言って隣に並ぶ。
二人だけの空間に胸が鳴って、どうして今頃…と問いたくなった。


「凛さん?」


職場なのに名前で呼ばれて振り仰ぐ。
彼の視線と真っ直ぐにぶつかり、大いに胸が弾んだ。

彼が私に目を向けたらこっちから挨拶をしようと思っていたのに、今のこの状況下では声も出ないくらいに動揺している。


「どうした?」


一昨日と変わらない顔つきで話しかけられ、何だか無性に泣きそうになった。
無視をされていたんじゃないのだと分かり、変に安心したからかもしれない。


さっ…と目線を下げて「別に」と返事をした。
ドクターは首を傾げ、窺うように覗き込む。


それを避けるように背中を向けたところで三階に着き、それじゃあ…と足を前に進ませようとしたのだが……。


前に伸びてきた腕に抱き止められてしまった。
自分の方に寄せるように後ろから抱き竦められて、驚くやらビクつくやらで声も出せず。


「今日は何時まで?上がるの待っているからラインしてきて」


耳元に声が届いて振り返った。
間近に見える顔が綻んで、ドクッと胸が疼く。