ロング・バケーション

「実は弱いワイン飲んでしまったから送れないんだけど、凛さんは一人でも帰れる?」


「え?」


目を見張ると向かい側に座るドクターは片目を細めて、済まないと軽く項垂れてきた。


「どうにも酔いの回りが速くて、既に頭がフラついてるんだ」


それで悪いけど下まで送れそうにないと言いだす。
今日一番のギャップを話す彼に、私は思わず目が点になった。


「大丈夫ですか!?」


身を乗り出しそうになる。
まあね…と頰笑むドクターは、タクシー代は出すからと言った。


「そんなの要りませんよ」


一緒に部屋まで行きましょうか?と言いそうになったが、途端にそうか…と思い付いた。



(これも彼の計算の内だ)


だったら今日は乗らない方がいい。
最初からそのつもりで来たんだし。


「私は一人で帰れるから大丈夫です。先生こそ足元に気をつけて」


そう言うと椅子から立ち上がった。
少し頬を赤くしているドクターの顔を見て、失礼します…と席を離れた。



「凛……」