ロング・バケーション

くくっと笑う声がして見れば、社長の小山内さんが右手を口元に当てている。
奥さんはその顔を苦々しく睨みつけ、そうではないんですけど…と言葉を濁した。

「それじゃ何故…」と問おうとしたが、それをしてもいけない様な雰囲気を感じて遠慮していると__


「花梨は水泳が得意だったんですよ。それでそんな風に呼ばれていたんです」


秘密を明かしたのは社長さんだ。
へぇーと驚く私達を尻目に、花梨さんは焦った様に彼の腕に手を掛ける。


「海辺の町の出身者でね、そこを離れて俺に付いて来たんです」


な?と声をかけられ、花梨さんはオズオズしながらもええ…と頷き。


「水泳が得意だったのは過去のことだし、此処では関係のないことだから話さないようにと釘を刺していたのに」


うっかり登山会のメンバーに話したことを謝る社長さんにむくれている。
仲が良さそうな二人の様子が窺えて、それはそれで更に羨ましく思う。


その後、二人の馴れ初めを聞かされた。
花梨さんは社長の彼に相応しい自分になろうと日々努力を重ねてきたと語った。