ミカンまで置いてある…と感心しながら見遣った。


「潤也さん曰く、『損して得取れ』の精神らしいよ」


ドクターは前に社長さんから聞いた話をしながら他の設備も見てみようと歩きだした。

ベッドルームの反対側の壁にあるドアを開けるとバスルームで、中は全面ガラス張りになっている。


窓の外には室内と同じように雄大な景色が広がり、檜の床材が敷かれた上には、黒い丼の様な形をしたバスタブが置かれ、温泉が掛け流し出来るように木の板が引かれていた。


「いくら損して得取れでも、こんな特典付けて大丈夫なのかな」


つい心配になってきてしまう。
ドクターはクスッと笑うと、本当だな…と呟き、温泉の栓を開いてお湯を出し始めた。


「でも、折角のサービスだから堪能しよう。さっき奥さんもごゆっくり…と言ったし」


そう言うと浴室の端にいる私のところに戻ってきた。
ドキンと胸を弾ませて見上げると、ところで…と表情を曇らせる。


「さっき潤也さんを見て完全に目を奪われてただろ。握手してる手も震えてたし、ああいうのは頂けないな」


「あ、あれは…社長さんが想像以上にかっこ良くて……」