三月になり、菜の花が咲き始めた川筋を私はドクターと二人で歩いていた。

若草の生えてきた地面からは土筆の穂が顔を覗かせ、春が近いと告げている。



「山の雪も大分溶けたね」


遠目に見える山の頂上を仰いで言うと、白衣を着た彼が、そうだな…と答えた。


「静間さんの体調も良くなってきたし、このまま起きれるようになるといいね」


静間さんというのは、ドクターの実家の常連患者さんだ。いつだったか、彼に往診のお礼として大根とお米をくれた人。

今日はその人を含めた患者さんの家を二人で往診に回っている。あの冬の日以来、私はこうして時々、彼の実家を手伝っているのだ。


「お父さんの足首もそろそろシーネが外せそうだし、良かったね」


まだ歩くには松葉杖が要るけれど。


「全く親父にも呆れるよな。自分の年も考えずに屋根の雪下ろしを手伝って骨折するなんて」


迷惑ばっか掛けて…とボヤく彼を笑い、それでもいいじゃない…と慰める。


「航さんは早期退職して、実家の医院を継いだんだから」


「お陰で凛とは遠恋中だけど」