ロング・バケーション

グスッと鼻水を啜りながら話す彼女は、目頭を滲ませたままで俺を見つめ__



「だけど……このまま帰ったら、後悔しそうな気がしてきて……」


目を伏せるとポタポタと雫がコートの上に落ちる。
彼女はそれを拭わずに息を吸い込み、鼻水を吸いながら続けた。


「ようやく…おじいちゃんから解放されたのに……今帰ったらまた……同じだと思って……」


ぎゅっとコートを掴んで肩を震わせる。
その言葉に、彼女にとってのネックはどうしたのだろうと気になり、具合はどうかと訊いた。


「生きてます……嫌味が言えるくらい…元気」


ホッと胸を撫で下ろすと、ありがとう…と声がした。


「何もかも……航さんのおかげ……です……」


再度お礼を言う彼女に困るように微笑みかける。


「お礼なら前に聞いたよ」


もういいと言うと、ううん…と首を横に振り。


「両親からも宜しくと言われました…それで、今度家に……」


言いかけた彼女が黙り込み、俺は再び顔を覗く。


「いいの。何でもない…」


目頭をハンドタオルで拭い、はぁーと息を吐き出した。