ロング・バケーション

名前を呼ぶと彼女が震えるように首を横に振る。
腕を伸ばそうとするがそれを拒み、更に力を入れて抱き包んだ。


あの救急車内で、本当はそうやって彼女を抱いてやりたかった。
だが、救急隊員の目もあり、それをしたくても出来なかったんだ__。



「何処に行くんだ。折角来たのに」


問い掛けると、彼女は泣き声も上げずに黙り込む。
その様子を窺いたくて顔を覗くと、目を潤ませたまま唇をぎゅっと噛んでいた。



「帰ろうとしたのか?」


何故だと思いながら訊くと、彼女は黙って頷く。
どうして…と問うたところで返事は帰ってきそうにないな、と思ったが__



「……私は…この町には要らないのかな……と思って……」


半泣きの声がして、俺は首を傾げる。
彼女の目からは大粒の涙が溢れ、その目が真っ直ぐと俺を見た。


「航さんには…決まった人がいるようだから……」


こんな所まで来て馬鹿みたい…と呟き、シュンと鼻水を啜る。


「馬鹿みたいだから…帰ろうと思ったの……来ても意味がなかったと…思ったのに……」