ロング・バケーション

「いいえ、別にもういいんです」


自分はお呼びではないのだ、と気づいたから。
時は既に遅いのだと知ったから。


涙を堪えて頭を下げ、キィ…とドアを押し開ける。
外から入り込む冷気の中に出て行き、そのまま早足で歩き出した。




(私は馬鹿者だ)


この地に着いた時に考えたことを思い出して情けなくなった。

此処は彼の別世界で、私は枠外にいるんだ。



(あんな風に噂になってる女性もいるし)


それならどうして私にプロポーズをしたのか。
彼も私と同じで、家族の言いなりになるのが嫌だっただけなのか。


(利用されただけなの?私…)


だったら此処まで彼を追ってきたことが馬鹿みたい。
来るべきじゃなかったのだ…と心底悔しく思った。



(もう帰ろう。その方がいい…)


つるっと爪先を滑らせそうになりながら駅へ向かう。

心の中に冷たい北風が吹き抜け、それが背中へと通り過ぎていくような空虚さを感じていた__。