ロング・バケーション

「流石は未来の院長夫人だな。見慣れない人にも親切だ」


待合室にいる別の患者がそう言い、女性は振り向きながら「何言ってんですか」と驚く。


「私がどうしてここの院長夫人になるのよ」


そう答えながらも頬は赤く染まる。


「いやいや、そうだと聞いてるよ。やっちゃんが若先生と結婚する予定だって」


ガツンとハンマーで打たれた様なショックを受け、さっと目線を彼女に向けた。


「私がワタルちゃんと結婚!?」


キャハハ…と甲高く笑う女性は、ないない…と右手を振って否定をするが。


「その噂なら私も聞いてるよ。奥さんが豆腐屋のカナさんに、近々結婚する気でいるみたいと話したって」


その相手がやっちゃんなんでしょ?と聞く中年女性に向かい、彼女は「え〜?」と困った様な顔つきをする。


「いっつも一緒に往診へ行ってるじゃないか」


「それは奥さんが入院中の大先生に付き添ってるからよ」


「未来の院長夫婦に任せているという訳だ。頼もしいねぇー」


「ちょっと、私の話も聞いてよ」