ロング・バケーション

眠っていると思われた祖父は、目を開けてそう聞いた。
ギクッとする私を睨み、深い息を吐き出した。


「縁談のことならもういいぞ。わしはもう誰にも期待はせんと決めたからな」


寂しい言葉を言い放ち、寝返りを打ってしまう。
その態度に呆れ、一瞬好きにすれば?と思ったのだが。



「おじいちゃん」


呼び掛けて一つだけ願い事を言った。


「もっとお父さんを信じてあげて」


優しくてお人好しの父を好きになって欲しい。

祖母が死んで独りになった祖父を心配して、好かれてないと思いつつも、一緒に住もうと母や私を説得したのは父なのだ。


「でないと私、自分の好きにも生きれない」


そう言い残して病室を出た。
祖父の気持ちが変わることを信じて、この町へ来たのだ___。



ぼんやりと考え事をしている私の視界にナースシューズを履いた爪先が見える。はっ…として目を向けると、受付の女性が微笑んだ。


「寒くないですか?ファンヒーターの温度、上げましょうか?」


いつまでもコートを脱がないでいたからだろう。気遣われ、大丈夫ですと答えた。