ロング・バケーション

「本当にもう…あなたって人は優し過ぎるんだから」


半ば呆れる声をかける母だが、父のそんな優しい部分に一番惹かれたんだと私は知っている。



「……いいな、二人とも」


後部座席から話す二人の会話を聞きながら、しみじみとそう思って呟いた。

自分もドクターとそういう関係になりたかった…と考え、胸が締め付けるられる様に痛くなる。


「なんだ。凛にも好きな人が出来たのか?」


バックミラー越しに父が聞く。


「案外とさっきの先生がそうだったりして」


なかなか素敵な人だったわよねと話す母の声に胸が弾み、慌てて違う!と声を発した。


「私はただ、お父さん達みたいな夫婦がいいなと思っただけよ」


「そうか、凛も結婚に憧れる歳だもんな」


「それならおじいちゃんの縁談に乗っかるのが手っ取り早いけどね」


母はさっきとは違うことを言い、でも…と自論を展開した。


「私はやっぱり凛には恋愛をして欲しいな。誰かを好きになって、誰かに好かれる喜びを知って欲しい」


母の言葉に父もそうだね、と頷く。

私は自分でもそうなりたかった…とは言えず、黙って車窓の景色を眺めて聞き流した___。