あの後、一時間程度で祖父の意識は回復し、脈拍も血圧も正常範囲にまで落ち着いた。

だけど、今夜は一晩ICUで様子を観ることになり、私達には帰っても大丈夫だとドクターからの指示が出たのだ。


「おじいちゃんはこれからもきっと、懲りずに縁談を勧めてくるかもしれないけど、凛がそれに応じる必要はないからね」


母は後部座席にいる私に向いてそう話す。


「あれはただ、私達への腹いせの為にやっているだけなの。そこに凛への思いや愛情がある訳じゃないから」


要するに我儘なのよ、と言う母に、父も止めなさい、と言い渡す。


「でも、あなた、悔しくない?!私達は、父の為にあの塔みたいなマンションの最上階に住んでいるのよ!?」


まるで幽閉生活を送らせてるみたいだと言う母に、父は反論を述べだした。


「そうでもないよ。彼処からの眺めは抜群にいいし、何より快適で暮らし易いじゃないか」


分不相応だけど…と笑いつつも、祖父を一人にはしておけないだろうと言っている。



「そりゃ、そうだけど……」