「それじゃお大事に。野々宮さん、また職場で」


手を挙げて去って行く彼をどれだけ追い掛けて行きたかったか。

だけど……



「凛、早く」


母の声には勝てなかった。
祖父が倒れたのは他でもない自分が激したからだ。



「は…い…」


小さく声を返して背中を向ける。

離れていく距離に涙が溢れそうになるのを堪え、何とか足を踏み出した___。






「それにしても呆れるわね」


帰りの車内で、母はそう言って文句を始めた。


「私があれほど凛には縁談を無理強いしないで、と言っていたのに」


父が運転する車の助手席で、母は大きな溜息をこぼす。


「仕様がないさ。君が俺みたいな男と結婚してしまったから」


父は肩身の狭い言い方をし、それを聞いた母は怒った様な声を返した。


「あなたはまた直ぐそうやって折れる!」


だから、いつまでも祖父が威張っているのだと呆れ、ねえ?!と後ろにいる私に振り向いて同意を求めた。



「えっ?…うん」


いきなり答えを振られ、慌てて返事をした。