ロング・バケーション

「凄くないですよ。建物と土地を幾つか持っているだけなので」


父は平凡なサラリーマンで、母はパートもしている家庭だと教えた。
庶民なんです、と言っておかないとお嬢様だと勘違いされても嫌だから。



「へえー」


何だか急に安心をしたのか、ドクターは吐息を漏らすように声を出す。
それから明日は十時に迎えに来ると言いだし、また明日と掌を振り、車に乗り込んだ。



「ご馳走様でした。気をつけてお帰り下さい」


助手席側から声をかけた。
胃袋が美味しいお肉で満たされて、身体も心もホカホカで幸福だった。


ドクターは車のクラクションを軽く鳴らし、走り始める。
その車体を見送りながら、フェミニストだけど軽い彼の提案に悪ノリしている様な気分に襲われた。


(明日はたった一日だけのデートだけど、精々楽しもうかな)


そう思いつつ踵を返し、住んでいるマンションへと足を進めた___。