お世話になっているのはお互い様なのに…と呟くドクターを目に入れ、私は少しだけ胸が鳴った。

まるで、あの夜のことが何もなかった様な一瞬が過ぎ、途切れた会話の途中で思い出した。


(…そうだ。私は彼とは終わってたんだ……)


距離を置こうと言われてしまったのだと気づき、馬鹿みたいに距離が縮んでいる様な気分になっていたと焦った。

それに気づくと、明るくなり始めていた気持ちは暗くなり、暗雲が胸の中へと立ち込めて来る。

そこに、看護師が両親と私を呼びにきて、医師からの説明を受けて下さいと願った。



「それじゃ、私はこれで」


頭を下げるとドクターはICUを立ち去ろうとする。
その彼を呼び止めて、まだ話したいことがあると願いたかったが__


「すみません。この様な場所にまでお付き合いを頂いて」


タクシー代を渡そうとする父に阻まれた。その父の気遣いを彼はやんわりと断る。


「お気持ちだけで結構ですから」


言い渡してくる言葉の力は強い。
母からもまたにしたら?と言われた父は、仕様がなくお札を折り、ポケットの中へとしまい込んだ。