ロング・バケーション

「誰か…」


そう呟くように振り向いて、泣きそうな声で訴えた。


「お願い!誰か早くAEDを持ってきて!それからドクターと救急車を呼んで!」


この場において自然とそう指示が出せたのは奇跡だ。
日頃の訓練の賜物としか言えず、私は願うと祖父の体を横にしようと傾けだした。




「凛…!」


そう聞こえたのは空耳だったのか。
私は反射的に振り向き、声のした方に目線を伸ばした___。



「………わたる……さん……?」


そう言うと、自分でもまさか…と思って見直す。

だけど、私の側に駆けてきた人は間違いなく彼で。


「どうしたんだ。一体」


そう聞くと祖父の様子を見つめる。
私は話すのも忘れ、彼の横顔を見ていた。


ドクターは祖父の顔色を見ると眉間に皺を寄せた。そこへホテルマンが走ってきて、彼にAEDを手渡した。


「多分心室細動の発作が起きたんだ。しっかりしろ!AEDを装着するぞ!」


振り向いた彼に怒鳴られ、私はハッと我に戻る。
指示通りに祖父の衣類を脱がせ、心臓を挟むように電極のパットを貼り付けた。