ロング・バケーション

すみませんと踵を返し、ホテルに向かって歩き出した。
中にいる祖父に、私を騙したの?と問いたくなったからだ。


「凛さん、待って!」


しつこく追いかけて来る倉元さんを振り返る。
彼は必死な形相で、私の側へ来るとこう言った。


「何か気に入らないことを言ったのなら謝ります。だから、もう一度考え直して…」


眉を八の字にして懸命に取り成す。
ひょっとしたら彼も父親に言われて、義務的な感じで私との縁談に応じたのではないだろうか。


そう思ったら胸が詰まってしまった。
そんな縁談に乗って結婚をしたところで、絶対に幸せにはなれないと感じて。


きゅっと唇を噛み締める。
この人も私も親族に踊らされたのだ__。



「倉元さんのことが気に入らないんじゃないんです。私には他に好きな人がいるだけです」


その人とは既に距離を置かれ、話し掛けても貰えない関係になったけれど。


「私、結婚をするのならその人とがいいと考えています。好きな看護師の仕事も続けられるし、相手のことも助けられるから」