ロング・バケーション

いきなり言葉をストップされ、キョトンとしたまま彼を見る。
正面に座っているドクターは少しだけ仏頂面をしていて、何かありましたか?と聞きたくなった。


「その先生って呼び方止めてくれよ。今は医師として君と食事をしてる訳じゃないから」


「あ…でも…」


それなら何と呼べばいいのだ。
困惑する気持ちを向けるように見つめれば、ニコッと微笑み返してきた。


「せめて名前で呼ぶか苗字にしよう。その方が気楽でいい」


「名前?苗字?」


城島航さんだから、「航さん」とか「城島さん」と呼べと言うの!?


「お…烏滸がましいです!」


流石に背筋がシャキッと伸びた。


「そんな…私ごとき一看護師が内科医の先生を名前や苗字で呼ぶなんて」


滅相もない!と掌を向ける。
箸を持ったまま無理ですと断り、立場の違いをプライベートだからと言って飛び越えられません、と言いきった。



「面白いね、野々宮さんは」


そう言うと彼は、他の者ならすぐにフランクに呼んでくるのに…と話すが、それは考えが無いか、単純に遠慮がないかのどっちかだ。