ロング・バケーション

タクシーの運転手さんはバックミラー越しに私を見て、ストーカーですか?と不審そうな顔で聞き直した。


「いいえ、違います。ストーカーじゃないです」


多分、ドクターだ。
私が腹立ち紛れに部屋を飛び出したものだから、少しは気にして追いかけてきたのだ。


「だったらいいんですけどね。最近は何かと物騒だから」


夕方も歩きスマホをしている女性が、何者かに斬り付けられたというニュースがあったばかりですよ、と話す。

それに、怖いですね…と声を返し、自分の部屋の住所を教えて向かってもらった。


何も考えず、彼の部屋を飛び出してきた。
ドクターのいきなりな言葉に動揺もしていたけれど、それ以上にショックと怒りが湧き出していた。



(私達これでもう終わり?)


こんな形でジ・エンドを迎えるなんてまさか。
だけど、彼はさっき距離を置きたいと私に言った。


(距離を置きたいってことはつまり、私との交際はやめるって意味?)


私が祖母を思い出して祖父の願いを聞いたから?
それが彼にとっては嘘を吐いたことになって、それが許せないと感じたせい?