ロング・バケーション

(何よ。距離を置きたければ好きにすればいいでしょ!)


どうしてそんな風に怒ってしまったのか。

分からないまま走って、公道に止まっていた空車タクシーへと乗り込んだ。



「とにかく早く出て下さい。少し真っ直ぐ走って」


息を弾ませていたからか、タクシーの運転手さんは「畏まりました」と低姿勢で応じる。

エンジンを吹かして走り出したその車窓を確かることもしないで、私はぎゅっと両目を瞑り、強く唇を噛み締めていた___。






「……お客さん」


タクシーの運転手さんは、少し走った後に声をかけてきた。


「大丈夫ですか?もうあの男の人は見えませんよ」


そう言われて俯いていた顔を上げる。


「あの…男の人って…?」


呟くと、あれ?勘違いでしたか?と問われた。


「背の高い男性が、貴女を追ってきたように思えたんですがね」


「えっ?男性?」


「ええ、黒いセーターを着て、ちらっとしか顔は見えなかったけど、なかなかの二枚目でした」


「それ…」


「やっぱり知り合いですか?」