ロング・バケーション

横を向いていた顔が振り返り、口角を上げて微笑まれる。
職場で何度も見た笑顔だったが、まともに自分だけに向けられたのは初めてで……。




「あ…いえ…」


しおらしく振る舞うつもりもないが口籠った。
これがイケメンパワーかぁ…と妙に納得してしまった。



その後、ドクターの提案でしゃぶしゃぶを食べに行った。
純和風の店内は全室個室の堀炬燵形式で、店の人のお勧めでブランド和牛のコースを頼んだ。



「はい、乾杯」


食前の梅酒以外は飲めないと残念がるドクターの顔を、しゃぶしゃぶ鍋から上がる湯気が霞ませる。

意外にも一日早く慰労をして貰えてラッキーなのかどうか、とにかくお肉を味わおうと思って出汁に浸した。



「そう言えば、明日は行きたい所とかある?」


「えっ」


極旨の和牛を味わっていたら訊ねられた。
まさか、明日も約束通りに付き合ってくれるつもりなの?と目を向けると、彼は真っ直ぐこっちを見つめている。

その目ヂカラに圧倒されそうになり、辛うじて喉に詰まらせずに肉を胃袋へと送り込んだ。



「……あの、先生」


「待った」


「はい?」