「凛…」


新聞を読み耽っていた祖父が呼んだ。
何?と振り返り、老眼鏡を外そうとしている祖父を視界に入れる。


「この間、お前が断ってきた縁談の相手がな」


「またその話!?」


間髪入れず強張った声で言うと、祖父は「まあ落ち着きなさい」と諭してくる。


「だって」


断ると言ったのに持ち出すんだから…と言いたくなったが、祖父が少し険しい顔つきでいたものだから引っ込めた。


「お前の気持ちは先方には言ったんだよ。孫娘はどうもその気が無さそうだと話したんだが__」


祖父は険しい表情を少し軟化させながら続きを話す。

それによれば、相手は納得がいかないからもう一度、せめて顔を見て話をさせて欲しい…と申し出てきたそうだ。


「どうも向こうは凛がお気に入りのようでな。話もしないうちから断れるのは嫌みたいなんだよ」


自分の顔を立てると思って、一度だけ会ってやってはくれないだろうかと祖父は言う。

母からは無理強いをしないで欲しいと頼まれたのだそうだが、祖父は自分の財産管理も絡んでいることだし是非ともお願いだ、と頭を下げた。