ロング・バケーション

「…じゃあ俺、今夜は帰るから」


バツの悪さを感じているのか、顔を覗かせた彼が言う。

私はそんな彼に目を向ける。
まだ目を見開いたままでいる私に唇を噛み、彼の手が頬を包んだ。


「そんな顔しないで。俺はもっと凛が喜ぶかと思ったんだけど」


違ったのかな…と言いたげな表情に胸が苦しく感じる。
直ぐにも違わないと言いたかったが、どうしても声にはならなかった。



「おやすみ」


少しの間を空けてドクターが囁く。
それにも答えられず、私は彼の離れていく手の感触をただ黙って受け止めるしかなかった__。



カチャン…とドアのロックが掛かり、彼が帰ってしまったのを聞いて、やっと意識が戻ってくる。


遊び人で誰とでも付き合いが長続きしないと噂されてきた彼が、まだ二週間かそこらくらいしか付き合ってない私にプロポーズをした。


しかも、どうやら本気みたいで、私となら実家の病院を継げると言う。


どうして彼がそう思うのか。
私が祖父の財産について、全く興味がないと言ったのがキッカケなのか。