ロング・バケーション



「凛。…さん」


さん付けで呼ぶ彼の声に胸が鳴る。
改まった様な感じに聞こえ、緊張が走った。


「俺と一緒になって実家の病院を手伝ってくれないか。俺は君となら共にやっていけると思うんだ」


真っ直ぐに目を見て話すから眼差しも背けられなかった。
ただ呆然として声は出せず、瞬きを数回繰り返すのみで。


「最初に付き合うと決めた時から言ってただろ。精一杯、真面目に付き合うと」


それを今の言葉で証明したと話す彼に、まだぼうっとしたまま「今?」と間の抜けた返事をする。


それを聞いた彼が若干首を傾け、はぁ…と短い吐息を漏らす。
私はそんな彼を凝視したまま動けずにいて、じっと答えを待っていた。


「凛」


強張った声が聞こえたのは直ぐだ。
空気が張りつめた様に思え、スッと背中を伸ばした。



「何でしょう。……か」


キリッと答え過ぎて「か」を付け足す。
その言葉を聞いた彼が微笑み、唇の口角が上がったまま続けた。


「俺と結婚しよう。一緒に実家の病院を継いで欲しい」