ロング・バケーション

彼の家は開業医らしい。
専門は当然内科で、彼はその病院をいずれ継ぐことが決まっていたから、医師になると決めた時も迷わず内科を専攻したそうだ。


「親父は長年腰痛持ちで、去年の暮れ辺りからそれが悪化して往診にも行けなくてさ。だから、何かと言うと呼び出されて、代わりに往診へ行かされることも増えてて…」


「え?…往診?」


そんなことをする病院なのか。
私はキョトンとして、不思議そうに彼のことを見た。


「ああ。実家は田舎の町にあるから患者の所へ往診にも行かないといけないんだ」


雪も多く降り、除雪をすることもあるくらい積もる時もあると言う。

それを聞いた私の頭の中では、先日ニュースで見た雪国の景色がふと思い浮かんでいた。


「冬は寒くて堪らないんだけど、凄くいい所なんだよ。そこに凛と一緒に行きたいと思ってるんだけど」


照れる様に言い始めるドクターを見つめ直す。
彼は少し頬を赤面させていて、その表情は至って真面目そうに見えた。


コトン…とグラスをローテーブルに置いた彼が振り返る。
こっちは彼の置いたグラスを一瞥し、向かい合う彼のことを見返した。