ロング・バケーション

運転席側に回り込んだ彼がドアを開けながら促す。
はあ…と生返事をしたものの、入るべきかどうかを躊躇う。

相手は誰とでも寝ると噂される男だから、『車に乗る』イコール『ベッドに誘われる』ということではないだろうか。


「何やってるんだ。早く」


助手席のウインドウを開け、身を横倒しにしたドクターがドアの隙間を空けてくれた。
その様子をちらっと見つめ、ぐっと息を吸い込む。


(えーい。乗っちゃえ!)


意を決して乗り込むと、慣れない男性の匂いが籠る車内に胸が大きく弾んだ。



「待ってなよ。そのうち温かくなるから」


エンジンをかけると、ヒーターの温風が出るまで我慢な、と言われた。
フェミニストだとも聞いていたが、成る程噂通りの人だ。

こういう所がきっと女子の萌えポイントになるんだろうな…と考え、唇を手で覆いながらほくそ笑んだ。


「何?手が冷たいのか?」


どれ…と言いながら伸ばしてきた掌で、私の両手を包んでしまう。
やっぱりきたかと感じたが、城島ドクターは真面目に心配してくれているだけのようだ。