「ふぅん…」


つまらなさそうな声が戻り、一瞬肩を竦める。
私は今日が休みで、この土日は勤務だ。


「航さんは今日仕事でお疲れでしょ。だから今夜の洗い物は任せて」


昼間、おニューのエプロンを買った。
ドクターの部屋で使用するつもりで、手荷物のバッグに忍ばせている。


「そんなの後から幾らでも出来るから」


ぐいっと腕を引っ張る彼に引きずられてソファへと連れて行かれた。
膝枕をして欲しいと甘える彼に呆れ、小さく笑いながら、はいはいと返事した。


ドクターの住む部屋は、今いるリビングダイニングの他に部屋がもう二つある。
一つは彼の寝室で、もう一つは仕事をする部屋だと聞いている。


嘘か本当かは知らないけれど、この部屋に入った女性は私が初めてらしい。

それを聞いた時には絶対にウソだと思ったけれど、彼は大真面目な顔で「本当だ」と言い張った。


だから、私もそういうことにしておこうと決めた。
彼にとって特別な存在でいたかったのだ。



「凛〜〜」


子供のように甘えるドクターの腕が腰に巻き付けられる。
伏せる目元が子犬のように見え、可笑しくてつい笑った。