それが娘さんの為にもなるだろうというドクターの声に頷き、あの時、ICUの前で弱りきっていた矢神さんのことを思い出して胸が切なくなる。

別れた夫婦にとって、娘さんの病気が鎹になった。
結果としては良かったのかもしれないけれど、今度は同じことを繰り返さないで欲しい。


(この人は……どうだろう……)


向かい側の席に座り、自前の料理を食べる彼を見つめる。
これまで次々と付き合う女性を変えてきた人は、今回も同じように短い付き合いをするつもりではないのか。



(ううん、それはない。きっと)


自信もないけれど、そう願っている。
彼のことを信じたいと思い、きゅっと奥歯を噛んだ。



「そう言えば、凛」


ポトフを食べた後、ドクターは私の名前を呼び捨てる。
少し慣れたがまだ戸惑う。
彼のことも時々名前で呼ぶのを忘れる。


「明日は仕事?」


首を傾げながら聞く彼に、そうですよと頷いた。


「早出だから七時半には出勤しないと」


本当はもう少し早く勤務に入る。経管患者用の流動食の準備をして、各病棟を回らないといけないからだ。