ロング・バケーション

「あ…お疲れ様です」


まだ居たんだ。


「丁度良かった。さっきの話、忘れないで」


「えっ」


フロアに降り立った私と擦れ違いにエレベーターに乗り込むドクターの背中を目で追う。


「年明け四日の休みのこと。行きたい場所とか考えといて」


そう言いながら振り返り、爽やかな笑みを浮かべた。

こっちが呆気に取られている間にドアはゆっくりと閉まっていく。



「……まさか、本気だったの?」


呆然としたまま呟いた。
どうやら遊び人と称されるドクターに誘われてしまったようだ。


「慰労とか言ってたけど」


一体何をしてくれるのか。


「彼と行きたい場所なんて」


そんなに簡単に思い付かないよねー、と独り言を漏らしながら業務へと戻った。