ロング・バケーション

その返事をするのを躊躇った。
胸の鼓動はドキドキと早鳴り続け、イエスもノーも言えないでいてしまう。


ドクターはそんな私のいる所へとやって来る。
その足先を見つめたまま、ぎゅっと唇を噛みしめた。


「そんなに黙っていられると困るんだけど」


すぐ側まで来た彼が声を出し、それに戸惑う様な目を向ける。


帰らないといけないのは分かっている。
明日は仕事だし、ここに泊まる為の用意も何もしてきてないのだから。


でも__


「か…えらないとダメ…ですよね」


確かめるように彼に聞いてしまった。
ドクターの上半身が少し揺れたように見えたのは私の気のせいだったかもしれない。


「それを俺に訊く訳?凛さんはどうしたいんだ?」


「私は…」


帰らないと駄目…とは思っている。
だけど、ドクターともっと一緒にいたい気持ちも強くて__。


「俺はもっと君といたいけど」


コトン…とカップを置いた彼が、私の頬に手を伸ばした。
擦り寄るように近づいてくる顔を眩しそうに見つめながら目を細めた……。


「…私も……です」


そう言うと閉じられた視界の中で唇に柔らかいものが触れた。