それから数日がたったある寒い日だった。
彼女は突然言ってきた。
「色、欲しい?色のある世界に、行きたい?」
「もちろん。行けるならすぐにでも行きたいよ。」
「私なら、それが出来る…。」
僕は驚いた。彼女の発言には驚かされてばかりだ。
「信じてもらえないかもしれないけど、言うね。
実は私…人間じゃないの。」
「…?」
人間本当に驚いた時は、声すら出ないものだ。
僕が落ち着くまで、何秒経っただろう。
やっと僕は声を出した。
「本当に?本当なら君は一体何者なの?」
「死神よ。私は人を殺すことが出来る。
その反対に私は人を救うことも出来る。」
「僕を色のある世界に生かすことも出来るの?」
「出来る、だけど人を救うのには、それなりの代償がいる。」
「それは?」
「私の命を差し出すこと。」
「……」
僕は言葉を失った。
僕が幸せになるために、彼女を失わなければいけないなんて…。
彼女は人間じゃなかった。死神だった。これで彼女の体が冷たかった理由も説明が出来る。
もう一つ気になることがあるとすれば、彼女の大切な人の話…。
彼女にそれを聞けば、すぐに口を開いてくれた。
「私がまだ死神になる前のお話。
その時私はまだ駆け出しの天使だった。
ある時私は、あなたによく似た人間と恋に落ちた。
彼はとても雪が好きでそれと同時にスノードロップという花も好きだった。
その花は和名で「待雪草」っていうの。
私にこの名前をつけてくれたのも彼だった。
彼は毎年冬にスノードロップの球根を植えて、その花の名前のように
「今年は雪降るかな。」って楽しみにしてた。
でもある日私の元に入った知らせは彼が死んだという情報だった。
話によると、私のために、私と一緒に新雪の積もっているところを見に行こうと下見に行ってくれていて、その時に崖から落ちて…死んでしまったらしい。
私はショックを受けた。私のせいで彼が死んだって。毎日のように嘆いていた。
そして私は誓った。死神になって、私と恋に落ちた人を幸せにするって。
そしてあなたに出会ったの。」
「そうだったんだ…。
でも、君がいなくなるのは嫌だ。」
「私も嫌よ。
そうだ。あなたにこれをあげる。」
彼女は鞄からいくつかの球根を僕に差し出して来た。
「スノードロップの球根よ。
これを育てて、私を思い出して。
大丈夫。私はどこからでも、あなたを見守っているから。」
「…分かった。
本当にありがとう。」
僕は彼女から球根を受け取った。
そして窓の外を見てこう言った。
「見て。雪が降ってる。」
「ほんと…綺麗。本当に綺麗…」
彼女は答えた。その目にはいつの間にか涙が溢れていた。
そして僕達は言葉は交わさずふたりそっと抱き合ってお互いの唇を合わせた。
最初で最後のキスだった。
そして彼女は言った。
「さようなら。新しい世界で楽しんでね。」
「ありがとう…。……さようなら。」
その瞬間、彼女は音も無く消え去っていった。
僕はそれから、どれ位の時間1人で泣いていただろう。
その日は泣き疲れてそのまま寝てしまった。